空鼻

朝起きて、コーヒーの粉がなくなっていたので新しいやつを開封して

淹れたコーヒーを飲もうとしたら、昨晩飲んでいたコーヒーが

カップにまだ少しだけ残っていたので

きんきんに冷えた残コーヒーをかっと飲んでしまい

横着してそこに新しい熱いコーヒーを入れて続けざまに飲んだところ

冷えた古い銘柄の残り香と、あたらしい奴の複合によって

正体不明のなつかしい風味が発生した 

 

少なくともコーヒーの懐かしさではない

たとえるなら、どこかの建物の中の匂いか

なにか特定の商品のパッケージを開けた瞬間の匂いのような工業製品系。 

過去に何度もかいだことのある匂いであるのは間違いない

しかもちょっと遠い記憶だ 

 

そういうなつかしさの破片が、なんか成分の組み合わせで偶然生成されて

すっと記憶に割り込んできた 

 

空耳ならぬ、空鼻といえるかもしれない 

それとも空舌かな?

 

 

なんだろうなんだろうと味わっていたら、カップのコーヒーを飲みきって

しまったので、もう一杯入れたところ、あたらしいコーヒーに完全に上書きされて

微妙なバランスで成り立っていたなつかしい風味は消えてしまった


正体がつかめないままであるから

どんな匂いだったかも、みるみる脳から抜け落ちていく

いまではどんななつかしさだったのかもすっかり忘れてしまった

 

夢を覚えてられなかったときの目覚めもこんなかんじだ

ちょっと寝ぼけていたのかという気すらしてくる