目配せ




道端に、エネルゲンの空き缶が落ちていた
車にひかれ、ぺちゃんこになっていたが、特徴的なカラーリングですぐにわかった
めずらしいもんが落ちてるな、と思って近寄ってみて、ぎょっとした

上の写真が、その実物である
エネルゲンのロゴの上に「パワーア」とある
これは、「パワーアシスト」というコピーで、エネルゲン発売当初のものだ
いまは「体脂肪を燃やせば持久力に!」という文言に切り替わっている。

このコピーが変更になってからもう十年は経っているはずだ
根拠は所有しているエネルゲンのスクイズボトルに「体脂肪」云々の
文言が印刷されており、それを買ったのがもう十年以上前のことであるからだ
もっと昔から体脂肪だったかもしれない。厳密なところはわからないが
発売当初はパワーアシストで、かなり前に変更になっていることはたしかだ
93年の発売以来、ほぼ姿を変えず販売され続けているエネルゲンのパッケージで
唯一大きく変更された部分だ

人気の無い道路の片隅に、唐突にぽつんと落ちていた
薄汚れてはいたが、印刷は鮮やかさを保っている
年代を考えれば、道端に落ちていたアルミ缶にしては奇跡的なコンディションといえる
どこか落ち葉の下にでも埋もれていて、なんかの拍子に転び出たのだろうか

この道はここ十年の間にも、何度も歩いた道なのだ


恐るべき偶然、不自然な出来事だ
エネルゲンの缶が落ちていること自体、そこそこ珍しいことな上に
長い時を超えたゴミが、比較的良い状態で道端に落ちていること
大半の人は気付かないであろう、この極めて不自然なゴミの不自然さについて
気付く人間が通りかかったこと

おれにしかわからないような形で、不自然さの目配せがあった
偶然のなかに強い意図を感じ取ってしまい、ぎょっとしたのだった
こんなにも強い眼光でこちらに何か訴えかけてくるゴミは初めてかもしれん


迷わず拾って帰り、古歯ブラシで綺麗に洗ったが
こうして考えてみると少々不気味な品のようにも思えてくる
丁重に扱いたい