寝る前に読んでいた本で、東京の水道水がまずいので
ミネラルウォーターを買うという一節があった
それで思い出したことだが


おれが幼少時に住んでいた地域は、東京近郊の住宅地だったので
水は比較的まずい部類だった
それでも東京の江戸川区だか江東区だかの水よりはうまいという
話を父から聞いたことがあり、都市部の最もまずい水よりは
まずくないのだなという知識はうっすらあった
しかしそれがどの程度の範囲のまずさの幅なのかはわからなかった
とはいえ、そんなくらいの水しか飲んだことがなかったため、特にまずいという
意識はなく、味のないふつうの水道水として飲んで過ごしていた


その後引っ越して、水のうまい土地へ移った
初めてそのうまい水道水を飲んだ時、味がしないな、と思ったのを覚えている

今まではまずい水道水こそが水で、それを飲んで
水だから味がしない
と思っていたはずなのだが、その更に上をいく
ゼロだと思っていたものが全くゼロではなかったことに気付く
純白だと思っていたのがクリーム色で、もっと目が覚めるような純白を知ったような
想像を超えた味の無さを味わったのだった

初めて飲んだうまい水道水の味の無さは不思議な感覚で
こんなにも飲みごたえが無いものか
間違いなく液体を飲んでいるのに味覚には一切触れない
液状化した空気を飲んでるような奇妙な物足りなさがあった

しかしその味のしない水道水を飲み慣れた頃に
前に住んでいた地域の友人の家に遊びに行った際、頼んで水道水を飲ませてもらったが
その強烈なまずさにびっくりしたのだった
慣れというのは面白い



ところでそんな話も随分昔のことで
水道水というのもどんどん美味しいものになっていってると思われる
浄水の技術は進歩していっているはずだし
東京都心部でも十分飲めるレベルになっているのだろう
そう考えると
まずい水道水というのもそうそう飲めない貴重なものになっているのかな
いまあれを味わいたいとなったらどこへ行ったらいいのだろう