たまに思い出す磁石のこと
何年か前、友人とどこか東京23区内だったと思うが
駄菓子やおもちゃの問屋のようなところに立ち寄ったことがあった

おもちゃはゴム鉄砲やベーゴマなど、昔ながらのやつが多かった
そんな中に、磁石のおもちゃがあった


長さ四センチくらいの、細長いラグビーボールのような形をした
黒い金属光沢がある磁石が、二つ一組になったものだ
そんなもんでどうやって遊ぶんだろうと思ったら、店番をしていた男性店員が
こうやるんだよ、といって両手に一粒ずつ持った磁石を宙に放り上げた

空中で磁石は引っ張り合い、ジュイーンというような音を立てながら落ちてくる
その音を楽しむおもちゃなのだという
磁力によって磁石同士が引き合い、ぶつかり合った反動で少し離れる、という
動きを空中で高速で繰り返すことによって出ている音のようだ

それだけのものだが、見た目からは想像できぬ妙な音色に意表をつかれ
へえーと思った。友人は買っていた。二百円くらいだったと思う
おれは迷ったがすぐに飽きてしまいそうな気がしてきたので買わなかった


それのことを時々思い出す
思い出して、ふと放り投げて音を出したい気持ちに少しなる

買っておけばよかっただろうか
しかし買っていたらすぐに飽きてしまってこうして思い出すこともなかったろうか
おもちゃにしては異様にシンプルで、なんだか夢じみた話にも思える




シンプルなおもちゃの記憶でいうと、モーラーというのもあった
オレンジ色のやわらかい毛虫のようなもので、テグスでうまいこと操作すると
まるで生きている小動物のように操作できるという
おもちゃと手品の間のようなものだ

顔もとぼけた味わいがあってかわいいもので、遊んだこともあるが
今思えば、こういうものは自分で操作してもさほど面白いものではなく
うまい人のパフォーマンスを見るのが面白いものである
ちょっといじくったものの、上手く操作できるはずもなく飽きてしまったように思う
これはすこし悲しさを伴って思い出される

いまでもモーラーはたまに売られているのを見かける